木村佳乃さん主演ドラマ『あなたには渡さない』の原作『隠れ菊』結末までのあらすじをネタバレでまとめてみました。
11月スタートの新ドラマ『あなたには渡さない』の原作は、連城三紀彦氏著の小説『隠れ菊』です。小説『隠れ菊』は上巻・下巻の二部構成となっていて、夫をめぐっての主人公と愛人の女の戦い、料亭花ずみの再建が描かれます。
巧みな女どおしの駆け引き、刻一刻と変わっていく人間関係、ただの不倫ものに終わらないサスペンスフルな展開に息を飲むこと間違いなしです。また、長き戦いの末に訪れた大どんでん返しの結末も必見です。
以下、ドラマ『あなたには渡さない』の原作となる『隠れ菊』結末までのあらすじをネタバレでまとめています。ドラマ『あなたには渡さない』の最終回結末のネタバレに繋がる可能性がありますので、ご注意ください。
目次
ドラマ『あなたには渡さない』原作の簡単なあらすじ(ネタバレ)
本記事では、ドラマ『あなたには渡さない』の原作となる『隠れ菊』結末までのネタバレあらすじをまとめていますが、まずはそのネタバレあらすじを簡潔に、起承転結でご紹介します。
(起)妻の座からの転落
料亭・花ずみの板長である上島旬平(萩原聖人)と結婚するも、店の経営にはかかわらず、家庭に入った上島通子(木村佳乃)は一男一女に恵まれ、穏やかな日々を送っていました。
しかしある日、そんな通子の幸せな日々は夫の愛人・矢萩多衣(水野美紀)が突然現れたことにより、崩壊してしまいます。
多衣から離婚届を突きつけられ、離婚に応じた通子は、今度は旬平と多衣の結婚届を切り札として、多衣から6000万円を借り入れます。現在の店が多額の負債の担保として取られてしまったことから、通子は旬平を新花ずみの板長として雇い、多衣から借りた資金を元手として、新しく花ずみをオープンさせることになりました。
(承)裏切りと旬平との完全決別
眠っていた女将としての才能を徐々に開花させ、通子は花ずみの経営を軌道に乗せて行きました。しかし、思いがけぬ裏切りや数々のハプニングに見舞われることにより、通子の毎日はまるでジェットコースターに乗ったような浮き沈みを繰り返します。
心の奥底では旬平のことを思っていた通子でしたが、思い続けても報われない辛さから、通子は旬平と完全決別。旬平と多衣は正式に夫婦となるのでした。
(転)多衣の妊娠
店の経営方針をめぐり、旬平と意見が食い違った通子は、旬平を解雇。これを機に、旬平が失踪してしまいました。通子は娘の優美(井本彩花)や息子・一希(山本直寛)の協力を得ながら、ますます花ずみを大きくしていき、女将業に没頭していきます。
しかし、ここに来て驚きの事実が発覚。多衣が通子のために用立てた6000万円が、実は多衣が笠井芯太郎(田中哲司)に身体を差し出したことにより得たお金で、多衣が笠井の子供を妊娠していることがわかったのです。
多衣は失踪中の旬平と離婚し、笠井と結婚することになり、物語は予想だにしない方向へと進んでいきます。
(結)笠井の破滅と4人の運命
多衣と旬平の離婚が成立し、多衣は通子の前から姿を消し、笠井のもとへと旅立ちました。その直後、笠井にヤミ献金疑惑が浮上したことにより、そのお金を最終的に手にした通子にまで疑いがかかる可能性が出てきます。また、このヤミ献金疑惑絡みのある理由で、多衣がお腹の子供の父親が笠井だと嘘をついていたことも発覚しました。
波乱万丈の末、通子と旬平、多衣と笠井、4人の男女の運命はどんな結末を迎えるのか?二転三転するストーリを経て、たどり着いた結末にさらに待ち受けるどんでん返しは必読です。
それでは、ドラマ『あなたには渡さない』の原作となる『隠れ菊』結末までのネタバレあらすじ、スタートです!
ドラマ『あなたには渡さない』原作上巻結末までのあらすじ(ネタバレ)
現れた夫の愛人
上島通子(木村佳乃)が、料亭・花ずみの跡取り息子である上島旬平(萩原聖人)のもとへ嫁いできてから18年が経とうとしている。結婚前の約束通り、通子が店を手伝ったことは一度もない。
縁談は花ずみの得意客だった上司を通じて、通子の家にもたらされた。普通のサラリーマン家庭で育った通子には料亭の嫁など務まらないと渋った両親。しかし、旬平の母親で女将のキクが息子には普通の家庭を持たせたいことから、一切店は手伝わなくていいと希望し、通子は上島家へ嫁に来ることになる。
しかし、通子は一切店のことには関知させてもらえないことで、徐々に疎外感を味わうようになっていった。子供の手が離れてからは、下働きを買って出たこともある。しかし、その度に姑のキクは『あんたはいいから。家庭を守る人だから』の一点張りで、決して店に通子を近づかせなかった。
あからさまな嫁いびりこそしないものの、通子はキクの意地悪さをひしひしと感じ、自分だけが蚊帳の外に置かれているような寂しさを感じながら結婚生活を送っていた。
そんな姑・キクが亡くなってからちょうど1年後。店と取引がある金沢の造り酒屋の主人が、ちょうど別の用があって浜松へ来るため、駅まで迎えに行って欲しいと旬平から頼まれた通子。なぜ面識のない自分が行かなければならないのか、気が進まないながらも、夫の依頼を断れない通子は目印に菊の花を一輪持って、駅へ向かった。
『花ずみの若奥様ですね?』主人ということで、相手がてっきり男性だと思っていた通子の前に現れたのは、妖艶な魅力が溢れる和服姿の女性、矢萩多衣(水野美紀)だった。多衣は通子よりも2歳年上であったが、声にも顔にも通子が真似できない成熟があり、それなのに肌は通子よりも若く光っていて、通子は平凡な自分の外見と比較し、気後れするのだった。
やがて、多衣は一方的に話し始める。10年前にヒモ同然だった夫を追い出し離婚して以来、独身であること、亡き姑・キクにはよくしてもらい、着物の帯までもらったこと・・・多衣の回りくどい話から、通子は女の勘で、酒屋との取引が始まった6年前から夫・旬平が多衣と浮気していることを察した。
『その想像は当たってますね』多衣はそう言うと、一呼吸置き、『私、ご主人をいただきに参りました』と通子に告げた。
夫と愛人の出会い
従業員旅行の宿で出た酒が気に入り、多衣の酒屋を旬平が訪ねてきたのは6年前のこと。多衣はお互い一目惚れだったと言い、工場見学を終え、旅館に案内した後、そこですぐに男女の関係になったと通子に語る。その夜、旬平を妻と子供から奪い取ることを決意したと多衣は言い、離婚届を差し出した。『あとは奥さんの署名と捺印だけです』すでに旬平が記入する欄は埋められていて、それは間違いなく夫の筆跡だった。
『あなた1人で暴走してるだけでしょう?!』動揺する通子に、多衣はさらに追い討ちをかける。多衣と旬平が結ばれることは、姑・キクも望んでいたことだというのだ。多衣は病床のキクから、自分に万が一のことがあった場合は、2度目に多衣と会った時に告げた自分の望みを叶えて欲しいという遺言があったこと、それがキクが通子に不満があるため、離婚させて、多衣と旬平を結婚させると語っていたことであることを告げる。
しかし、これだけのことを告げられても、なぜか通子は徐々に冷静になりきっている自分に気づいた。そんな通子が完全に予想外だった多衣は『奥さんも予想したより凄い女だけれど、私はもっとものすごい女ですよ』と捨て台詞を吐き、去っていった。
夫との対峙
旬平はそれから何の連絡もよこさなかった。仕事が立て込むと店の離れで寝泊まりし、家に長い間帰ってこないことは以前からあった。
『明日のおばあちゃんの法事のために、花ずみにちょっと出るから』子供たちにそう告げ、通子は家を出た。
花ずみに到着し、出迎えた仲居に『今夜は私、客としてきたの』と言う通子。
中では女将の堀口八重(荻野目慶子)が手をついて待ち受けていた。客が通子であることに気づいた八重の瞳に恐怖が走る。八重は通子と旬平の離婚届の保証人になっていたからだ。
通子は生活費ではなく、自分のお金でしたいことがあるからとつい先日、通子の兄の友人で建設会社社長・笠井芯太郎(田中哲司)に4万円を借りに行ったばかりだ。それは、花ずみで食事をするためのものだった。
今日自分がここに来ていることは夫には黙っておくよう、八重に告げ、個室に案内された通子。料理が運ばれ、通子が来ているとは知らないまま、最後に旬平がやってきた。『あの人との6年間のこと話してください』と通子は切り出した。
旬平が話した内容は、多衣が話したものと同じだった。『その晩、抱いた。ただ体に溺れた。今も溺れている。男が家庭を捨てるには十分な理由だろう』旬平はそう淡々と語った。
『こんな美味しいものいただいたからご祝儀を出させてもらうわ』通子は署名し捺印した離婚届を差し出した。『やっぱり振り返ってはくれなかったんだ。やっぱり君は強い女だ』旬平は独り言のようにそう言うと、両手を畳につき、頭を垂れた。
そんな中、『この離婚届を有効にするためには、ひとつ条件があります』と切り出した通子。通子は『この花ずみの女将をやらせてもらいます』と言う。しかし、旬平は頑なに『それは無理だ』と応じなかった。『あの女が承知しないんですか?』と尋ねた通子。しかし、多衣は通子と対峙した後、奥さんならきっと何かをやると通子を評し、女将をやらせてみてはどうかと言っていたらしい。キクも通子の本性を見抜いていて、だからこそ花ずみに近づけなかったのだと旬平は語った。
『倒産同然なんだ・・・』やがて旬平は花ずみが多額の負債を抱え、倒産寸前であることを明かす。『でもあなた、そんな素振り全然・・・』驚愕する通子に『それはお前が俺を見ようとしなかったからだ』という旬平。子供たちも、通子の母親も、旬平の痩せ、落ち込んだ様子を気にかけてくれたことに対し、通子だけが異変に気付いていなかったのだ。負債はキクの代でできたものだった。
そこへ八重が現れた。『すみませんでした!』八重は頭を畳に擦り付け、謝罪する。『私は偽装離婚だと聞かされて・・・』倒産した場合、負債を妻である通子が背負わなくて済むようにするための偽装離婚だと、八重は聞かされていたらしい。
離婚を決意した理由は、多衣とのことももちろんあるが、通子と子供たちに迷惑をかけないため・・・そう旬平が言った時、気がつけば通子は『馬鹿にしないでよ!』という怒号とともに、旬平の頬を思い切り打っていたのだった。
女どおしの契約
そのまま通子と旬平の離婚が成立して、しばらく後。通子は金沢の多衣のもとを訪れ、『買っていただきたいものがあるんです。旬平も了承してます』と婚姻届を差し出した。そこには旬平の署名と捺印、旬平側の保証人の欄には通子の署名と捺印があった。
自分たちはあくまでも借金のために偽装離婚しただけだと通子は復縁の可能性をほのめかし、この用紙を担保にお金を借りたいと申し出る。『いくらですか?』と多衣が聞き、『6000万』と通子が答えた。花ずみは今日明日にでも銀行に取られてしまうことが決まっている今、通子は別の場所に店を構え、元夫・旬平を料理人として雇い、花ずみの名を残そうと考えていた。
『話によってはお貸ししますよ、6000万。ただし、担保は私が言うものにしてもらいますが。立石通子、担保はつまりあなたです。私はあなたに賭けてみようと思うんです』多衣は後ろを振り向かない通子に投資すると言い始め、通子を困惑させる。お金は名古屋のある人に無利子、無担保で借りたものらしい。
『それから、もうひとつの担保ですけど・・・』そう言うと、多衣は身体から帯をほどき始めた。姑のキクから譲り受けたと以前話していたものである。多衣はキクが亡くなる少し前に、この帯を通子に渡してほしいと預かったこと、自分の葬儀にはこの帯をつけて出てほしいという遺言があったことを明かす。やがて、完全に解かれた帯の裏側から、艶やかな色で刺繍された大輪の菊が浮かび上がった。
それは、激しい姑いじめを受けてきたというキクが、姑が死ぬまでの時間を1秒ずつ数えるように一針ずつ、刺繍していった帯だった。キクは姑の葬儀の時も、夫の葬儀の時も、この帯をつけ、誰にも知られずに身体の陰に艶やかな花を咲かせて見送ったのだ。
『お義母さんがなぜこれを私に・・・』理解できない通子に、多衣が言う。『この菊が語っていることはあなたの耳でお聞きになってください』キクに可愛がられてきたものの、自分は所詮愛人で、旬平も花ずみも通子のものだとキクが言っているように聞こえると多衣は悲しそうに語る。
もし、通子が貸した金を返せないことがあれば、担保としてこの帯をもらいたいと多衣が言い、通子は応じた。
こうして、通子は自分自身と帯を担保に、6000万円の小切手を手に入れたのだった。
女将になった通子
改装費用を赤字ではないかと疑うほどの低コストで抑えるなど、通子が新しく開店させた花ずみへ、笠井は大いに貢献してくれた。笠井は通子の兄の友人で、通子も幼い頃からよく知っている。旬平との偽装離婚が成立した後、そのことを通子が報告すると、笠井は『ともかく形だけの離婚でも、俺にまたチャンスが巡ってきたわけだ』と冗談か本気かわからないことを言った。
通子は実家へ戻ったが、旬平とは新しく開店させる店の件で、毎日会っている。一方、旬平と多衣はあれから話もろくにできていない状態らしい。このことを聞いた通子は、多衣があえて旬平に冷たくしているのは駆け引きだと思う反面、6000万円を多衣に用立た人物と多衣が男女の関係なのではないかとも気になっていた。
こうして、新しい花ずみが開店した。以前の高級路線から大衆受けする料理と価格に抑えスタートした花ずみは順調な滑り出しを見せる。あまり広くない店だが通子1人ではとても回らず、八重が手伝いに来てくれ、通子はありがたい思いでいっぱいなのだった。
そんな中、店に不可解な嫌がらせやレシピの流出が相次ぎ、八重にスパイの疑いが浮上した。そんな八重はかつて花ずみで旬平が跡を継ぐまでの数年間、板長を務めていた前田という男と愛人関係にあるようだ。前田は旬平が板長に就くと同時に花ずみを辞め、勝浪という老舗料亭へ引き抜かれていった。八重はキクのことを、前田は旬平のことを恨んでいた。
しかし、そんな疑惑が浮上してからもなお、通子は八重を店に置く決意を固め、旬平を驚かせる。キクを恨んでいるのは自分も一緒であることから、八重は自分の心強い味方になるかもしれないという考えが通子にはあったからだ。
それからも店の売り上げは順調で、商売という同じ目標ができたことにより、旬平との間にも以前は感じたことがなかった絆が芽生えてきたような気が通子にはしている。そんな奢りがあったのだろうか。店の売り上げが好調で、借金も多めに返済していけそうだということを多衣に連絡したのは、オープンした月の月末のことだった。
旬平から多衣のことは聞かず、自分のところへも連絡がないことから、てっきり旬平が多衣とは疎遠になっていると思い込んでいた通子だったが、そうではなかったようだ。多衣は今月に入ってもう2度も旬平と会っていると言い、通子は衝撃を受けることになる。自分は女としては敵だが、商売人として利益も一致しているのだし味方だ、困ったことがあればいつでも相談に乗ると多衣は言った。
『この頃では旬平より店の方が大切になってきて、旬平よりもあなたの方が味方だと思うこともあるんです』2人の仲が疎遠になっていると勘違いしていた自分が恥ずかしく、通子は無理にそう取り繕い、それ以来その言葉を自分自身に言い聞かせる。
その電話の翌日、旬平と自分とを隔てるカウンターの幅が昨日よりも広くなったと通子は感じるのだった。
八重の裏切りと苦悩
オープンの翌月までは好調だった客足が、徐々に減り始め、2階の座敷席はおろか、1階の席にも空席が目立つようになった。旬平と通子の新しい試みがことごとく勝浪の前田に流出している点で、客足が流れている分を考慮しても、それは減りすぎだと思わざるを得ない状況が続いている。
そんなある日、いつものように深夜に帰宅した通子に、珍しく遅くまで飲んでいた父親が『繁盛しすぎも結構だが、無理はするな。前の会社の同僚が予約を入れるたびに断られるってこぼしてたからな』と漏らし、通子は驚く。『予約っていつの話・・・?』それはつい2、3日前のことで一旦予約を受けた後に、やはり満席だったという断りの電話が入ったのだという。その日の予約が満席どころか、まだ1件も入っていないことを通子はもちろん知っている。八重の仕業だった。
また、八重の工作はそれだけではなかった。前回と同じものを注文したのに会計が前回と今回で違うという苦情が寄せられたのだ。以前、会計を担当したのは八重。ボラれるという噂を流すために、多めの金額を八重が請求していたのだろう。実際、苦情が入ったサラリーマンが勤める会社では会計がおかしいという噂が立っていたようだ。
次に八重が店にやってきた時、通子は八重に給料を差し出し、暇を出した。給料を差し返す八重に、『そうね、給料はうちよりも勝浪から・・・前田さんからもらうのがスジね』と通子は用意していた言葉を切り出す。八重は最近若い娘に入れあげている前田の気を引こうと、自ら工作を名乗り出たことを涙ながらに明かし、通子たちに謝罪。店を自ら辞めていったのだった。
娘の反抗
それから徐々に客足が戻り始めたある日のこと。店を手伝いに来てくれた娘の優美(井本彩花)の髪から、見慣れないべっ甲の髪飾りが落ちたことに気づいた通子。『おばあちゃんの形見?』と尋ねた通子に、優美は『新しいお母さんになる人からもらったの。この前、金沢から出てきた時に』と答えた。
このことを旬平は知らないらしい。しかし、多衣はこちらへ来るたびに旬平には黙って優美に会い、ものを買い与え、手名付けようとしているに違いない。そんな嫌な気持ちに支配される通子だったが、これは優美の嘘で、実際には多衣は一度も優美に会ったことはなかった。
通子の知らないところで、優美に非行の陰が見え始め、この後、優美は通子への反発を見せていくことになる。
多衣の助け船
店の客足がまた減り始めたある日、多衣が店に突然やってきた。何の偶然か、同時刻にかつての旬平の父の愛人・鶴代も客としてやってくる。この鶴代は旬平の父が死んだ際、遺産を分けろと花ずみへ怒鳴り込んできて、キクに塩を撒かれ撃退されたことから、キクに大きな恨みを抱いている。
最初はチクチク嫌味を言う程度だった鶴代だったが、酔いがまわるに連れ、キクの形見である着物を着ている通子の姿が、キクに重なって見えてきたようだ。塩を要求するも断られ、鶴代は目の前にあった醤油差しの醤油を通子の着物にぶちまける。
やがて会計をしようと席を立った鶴代。今までカウンターの隅で黙って見ていた多衣が突然『勘定、100万円はいただきなさいね』と声を上げた。『愛人が奥さんのもとに乗り込むなら、塩を撒かれることくらい覚悟の上で出かけたらいかがです?それを逆恨みするなんて、愛人の風上にも置けやしない』鶴代は逃げるように帰っていった。
今夜中に金沢へ帰ると店を出た多衣を見送りにでた通子に、多衣は今度鶴代のところへフォローに行くよう、アドバイスした。多衣はあえて憎まれ役を買って出ることにより、恨みの矛先を変えようとしていた。鶴代は元芸者であることから、通子が多衣とキクに受けた仕打ちを相談し、味方に引き込んでしまえば、かなりの数の客を引っ張ってきてくれるに違いないと多衣は踏んでいたのだ。
通子なりのけじめ
多衣から離婚届を突きつけられたあと、初めて旬平と花ずみの座敷で対峙した晩と同じような嵐の日。旬平が1人暮らすアパートを訪れた通子は、ついに今まで怖くて聞けなかった一言を旬平に突きつけた。『あなたは私と多衣さんのどちらを愛してるんですか?』すると旬平は『お前は俺を愛しているのか、愛していないのか』と返してくる。通子は旬平の目をまっすぐに見て、『愛してるわ』と答えた。
おもむろに布団を敷き始めた通子は『最後に私を抱いて、さっさとあの女と結婚してちょうだい』と切り出す。愛していても仕方ないものを愛することに嫌気がさしたこと、そんな自分を断ち切るためにも、旬平には多衣と結婚してほしいことを通子は旬平に告げる。旬平の方も多衣とのことで、まだ通子に黙っていることがあること、完全に決別するなら言う必要のないことであることを通子に告げ、立ち上がり部屋の電気を消すのだった。
旬平と通子が男女としての最後の関係を持ってから数日後、『旬平さんから聞きました』という多衣からの電話があった。『おっしゃった通り、半端だったのは私の方かもしれません』多衣はそう切り出し、どうせ他人の亭主に手をつけたからには最後まで盗み取って、泥棒の汚名に甘んじると言い、その言葉の通り、旬平と正式に夫婦となった。
多衣は旬平のアパートの隣にもう1部屋借り、金沢と行き来しながらの新婚生活をスタートさせたのだった。
ドラマ『あなたには渡さない』原作下巻結末までのあらすじ(ネタバレ)
勃発した傷害事件
多衣がかつてアドバイスした通り、通子が旬平の父のかつての愛人・鶴代との関係を修復したおかげで、店には鶴代の紹介の客が常連として通ってくれている。
偽装離婚という中途半端な状態から、正式な離婚となったことで、迷いがなくなった通子は以前にも増して、生き生きと女将業に精を出し、あまりの変わり身の早さに旬平の方が驚いているのだった。
実際通子は女将としての才覚を発揮し始め、キクと口論になって以来、花ずみとは長い間疎遠になっていた得意先を、ライバル店である勝浪から取り戻すことに成功。会社の記念式典での引き出物として千食分の寿司の注文を受ける。多衣の手も借り、翌朝の納期に向け、店がてんてこ舞いとなっているところへ、突然血まみれの八重が現れた。
『私が出刃で刺して、警察に行こうと思ったのに・・・』どうやら八重は不倫相手で勝浪の板前・前田を刺してしまったらしい。かつては勝浪に通っていた得意先が、花ずみに戻るきっかけ作りをしたのが八重であることがバレ、口論になっていた。
やがて、まだ客がたくさんいる店内に警察が駆けつける。前田が花ずみの通子も共謀だと通報したことにより、通子にまで疑いがかかっていたが、やがて自首した八重が自白したことで疑いは晴れたのだった。
笠井の告白
無事、寿司が完成した。渋滞に巻き込まれるも、途中新幹線に乗り換えたこと、通子の依頼を快く引き受けてくれた笠井の会社の社員たちの助けもあり、無事寿司を会場へ届けることができた。寿司の評判は上々で、今度浜松へ寄ったら必ず寄ると約束してくれる人が何人もいた。
車を取りに、笠井が借りているマンションに戻った通子は、笠井の勧めもあり、そこでつかの間の仮眠を取る。やがて、帰ってきた笠井が通子を浜松まで送り届けてくれることになる。車内での通子の苦労話を、笠井は優しく聞いてくれた。もし、笠井が旬平よりも先に求婚してくれたなら、自分にはこんな車内のような幸せがあったのかもしれないと通子は想いを馳せる。
やがて、浜松へ到着した時、笠井が切り出した。『単刀直入に言う。本気で俺はみっちゃんを・・・君を俺のものにしたいと思ってる。一晩だけでもいいから』笠井は数ヶ月前に妻と離婚したことを明かした。笠井がお金で買った情事がきっかけとなり、妻の不満が噴出した結果らしい。
『一度だけの浮気っていくらかかったの?』今の自分であれば一晩いくらになるのか、そんな話を通子がしているうちに実家に着いた。『自分を売りたくなったら、いつでも電話くれていいからな』と冗談ともつかない声で笠井は言い、帰っていくのだった。
新たな挑戦と裏切り
八重と前田が起こした傷害事件により、勝浪の経営に暗雲が射し始める。店を今売っても損は目に見えているものの、放っておけばダメになると考えた勝浪の主人・大瀬が、通子と旬平に1年間勝浪を花ずみの名前で経営してくれないかと言ってきた。花ずみの名前で1年も経営すれば、傷害事件で着いた悪評も払拭され、その頃には高く売れるだろうという算段があったのだ。
売り上げの実に7割を超える取り分は一見メリットのある話かのように思えたが、通子は大瀬の算段をすぐに見破り、長いスパンで考えると、1年間今の花ずみを人に任せることで自分たちが得られる利益はないと判断。逆に、いくらでなら勝浪を売っていいかという商談に導いていく。大瀬は5000万円を提示した。
そんな中、旬平の背広に入っていた、多衣と行く新婚旅行のためのパスポート申請に必要な戸籍謄本を偶然目にしてしまった通子は2人が、通子と旬平の離婚成立後すぐに入籍していたことを知る。あくまでも自分と旬平は偽装結婚だと通子が思い込んでいた期間、すでに2人は結婚していたのだ。旬平が多衣とのことでまだ通子に明かしていないと言っていたことのうちのひとつはこのことなのだろう。
多衣はすでに旬平と入籍していながら、それを隠し、通子の口から結婚するようにという一言が出るのを虎視眈々と待っていたのだ。奪われたのではない、自分の方からくれてやったと自分を納得させていた通子の心から、途端に嫉妬と憎しみが溢れてくる。式を挙げないのだから新婚旅行にくらい行けばと勧めたのは通子なのだが、真相が明らかになった今ではそんな余裕は吹き飛んでいた。
一騎打ち
そんな多衣への嫉妬を隠しながら、通子は多衣と会った。『夫を返してください』しかし、多衣はそれには応じることができないと断った。すると、通子は旬平を返せない代わりの交換条件があることをほのめかす。
『全部脱いでちょうだい。あなたの体を改めさせてもらうわ』多衣は抵抗するが、これまでに見たこともないような通子の鬼の形相に怯え、おとなしくなる。通子は力任せに、多衣の体から着物を剥ぎ取る。やがて、通子は多衣の美しい体を目の当たりにした。
『充分5000万の価値はあるわ。私ね、それを確かめたかったのよ』通子はそう言うと、『私の代わりにある人と寝て欲しいのよ、5000万で』と切り出した。しかし、多衣はきっぱり断った。通子のためにはすでに自分の体を犠牲にしたことが理由だと、多衣は語る。通子の出店のために、多衣が用意した6000万円のことだ。
夫と離婚して以来、誘惑されることはあれど旬平以外の男性に体を許したことがなかった多衣が、通子のために自分を犠牲にしたことには理由があった。それは、あの時自分が開店資金を用意しなければ、旬平が通子の元へ戻ってしまうことを知っていたから。多衣は、通子が金沢へ融資の話に来る前日、旬平から別れ話を切り出されていた。旬平が『岐路に立ってはっきりわかった、自分が通子を愛してることが』とはっきり言ったことを通子は多衣から聞かされるが、にわかには信じられない。
多衣が明かした真相
多衣は一度手に入れたと思っていた旬平を、今にも通子から奪い返されることにずっと怯えていたのだ。『私の惨めさを知ろうともせずに、たった一言、泥棒猫ですか』多衣はそう今まで秘めていた苦しい胸の内を明かすと、大粒の涙を流し始める。『所詮は紙切れ一枚。今でも通子さんの一言で、あの人そんな紙さっさと破り捨てて、通子さんの元へ戻っていきますよ』
『それで?今度は誰と寝ればいいんですか?5000万を通子さんのために作るには。もしかしたら笠井建設の社長じゃないでしょうね?笠井さんだけは嫌です』そういう通子は笠井と面識があるらしい。多衣は旬平から自分の連絡先を聞き出した笠井が、旬平と別れるよう、電話をしてきたことがあることを明かした。
『一度で懲りて、私の体が通子さんの体じゃないって分かって二度と抱かない人ですよ、もう二度と・・・』多衣があらわにした弱みに軟化しそうになっていた通子は、ふと多衣の目の色が突然変わったことに気づく。『二度とって・・・?』通子は震える声で尋ねる。笠井の離婚のきっかけとなった浮気は多衣とのものだった。
通子に離婚させたくない笠井との話し合いの場所を、お互いの中間地点である名古屋で持った多衣。最初、笠井は手切れ金を受け取らない多衣に金を持たせる理由の口実のため、関係を迫った。その時は断った多衣が、笠井のことを再び思い出したのは旬平から別れを切り出され、通子に恩を売ることで旬平をつなぎとめられると考えたからだった。笠井はそんな多衣の真意を知らずに、通子のために多衣を抱いたのだった。
多衣は通子に6000万円の小切手を渡した直後、旬平のもとを訪ね、通子のために相当な無理をしてお金を作ったのだから入籍してくれと泣いて迫っていた。そんな多衣に、旬平は『一つだけ君に隠していることがあるが、それでもいいか?』と尋ねてきたという。それは多衣とは結婚するが、心では通子を愛し続けるということだった。旬平は自分を担保に愛人に金を借りに行った通子の行動を目の当たりにし、自分への愛は完全に覚めたと思っているようだった。
店の資金6000万円が笠井の懐から出たという真実を聞いた通子は、帰りの新幹線の中から笠井に電話した。お金が必要になった時、新幹線の券売機の前で、通子は笠井に体を差し出し、笠井から借りるか、多衣から借りるかで最後まで迷っていた。1番憎むべき存在である多衣から借りることで最後までお金を返し切りたいという思いもあったが、通子が笠井から借りなかったのは自分たちの関係を汚したくなかったから。そんな思いを通子は笠井に打ち明け、結局女としての自分が多衣から、旬平だけではなく笠井までも奪われていたという事実に、通子は嫉妬の炎を燃やすのだった。
失踪した旬平
最終的に通子は勝浪を買う手付金を正当な手段で手に入れることになる。花ずみを会社化し、自分と旬平、多衣3人で共同経営しないかと持ちかけたのだ。通子は現在の花ずみの権利を多衣に渡すことでその借金をチャラにし、多衣が店を担保に入れることで勝浪の購入資金5000万円を銀行から借り、通子がそのお金を使い勝浪を買うことになる。
この間、通子と腹の底まで見せ合ったことで、多衣は通子との間に絆を結べたと語り、『どんなに大変でも私、通子さんについていきますよ。たとえ旬平が私から離れることがあっても』と言う。元妻と元愛人、今立場が入れ替わった女2人の連帯感はさらに強くなった。これを機に多衣は金沢の仕事を弟に引き継ぎ、花ずみの本店を旬平と2人で切り盛りし、通子が勝浪から買い取った支店の方を切り盛りしていくことになった。
しかし、通子が支店の方で執行猶予がついた八重と前田を雇おうとしたことをきっかけに、旬平と通子の対立が高まった。『あいつの顔で泥を塗られるよりは、その方がずっとマシだ』花ずみは自分の暖簾で、前田に泥を塗られるくらいならば返してもらうと主張する旬平の一方、通子は八重と前田のことを救いたいと考えていた。実際、勝浪はこの2人の傷害事件が原因で衰退したが、それは傷を隠していたから。大ぴらに笑い飛ばしてしまえば、それは、漫才になると通子は考えていたのだ。だが、旬平はどうしても納得がいかない。
そんな旬平に多衣が声を荒げる。『社長のやり方に文句があるなら、前田さんじゃなくあなたがやめるべきだわ。おなたとお母さんの花ずみはもうとっくに湖の底で、今の花ずみの名は通子さんのものよ』『だったら、辞める』旬平が言い出した。
『辞めたいというなら引き止めませんから』通子は引き止めなかった。しかし、それから3ヶ月後、旬平は多衣にも何も言わずに、アパートから消えることになる。蒸発といったような大層なことではないから、探さないでくれという書き置きだけが残されていた。
これを受け、通子はかつて旬平が筋がいいとよく面倒を見ていた、支店の矢場俊介(青柳翔)に本店を任せることになり、本店の方は多衣と矢場2人に任せる形となる。2人が切り盛りする本店も、通子が切り盛りする支店も共に客足は順調で、以前より慌ただしい毎日に追われながらも、通子はふといなくなった旬平のことを思い出し、喪失感に襲われるのだった。
多衣の妊娠
そんななか、多衣が妊娠していることがわかった。多衣は子供の父親が笠井だと言った。
笠井の調査の結果、静岡のとある大衆食堂に旬平がいることを知った多衣は、旬平を迎えに静岡へ向かうも、途中で自信喪失し、ふとした気の迷いから笠井と会い、二度目の関係を持ったこと、その時の子供であることを明かす。てっきり矢場との間の子供であると予想していた通子は、ショックを受けながらも、旬平が自分と多衣の前から去った今、多衣が笠井と幸せになれるならば、多衣を送り出してやりたい気持ちでいっぱいになり、子供を生むよう、背中を押した。
すると、多衣は『だったら約束してください。通子さん、旬平さんともう一度やり直すって』と予想外の言葉を投げつけてきた。旬平の心にもはや自分がいないことはわかっているものの、旬平のことを諦めきれない自分がいることを多衣は明かし、そんな自分の迷いを断ち切るためにも、旬平には通子と幸せになって欲しいのだという。旬平と通子がやり直さないならば、多衣は子供を堕し、旬平のもとへ行くと半ば脅しのようなことを言う。
『行きたければ旬平のところへいきなさい。お腹の子供をさっさと堕して。でも今度こそ旬平にきちんとくっついて、二度と私には近づかないでちょうだい』通子は迷っている多衣を落ち着かせ、笠井と幸せになれるよう、多衣を金沢まで送り返した。
それからしばらくした後、多衣から通子へ『私の方から離婚届を送るから、通子さんの手で、旬平さんに渡してもらえませんか?』という電話があった。こうして通子が間に入り、旬平と多衣の離婚が成立した。
ある日、通子が金沢に電話すると、多衣は不在だった。多衣の弟嫁から10日前から多衣が静岡に行っていると聞かされた通子は、、多衣が笠井の子供を産み、笠井と幸せになる決意を固めたのだと一安心する。しかし、同時に通子は女の勘で、多衣が自分にまだ何かを隠している予感がしてならないのだった。
多衣の真意
そんななか、通子の兄と笠井の大学時代の友人の県知事・海堂に複数の贈賄容疑が浮上した。2000万円のヤミ献金を渡した笠井にも、疑惑がかかっているようだ。笠井がヤミ献金を行ったのは、多衣に6000万を渡した時期と近いことから、調べられれば、6000万に贈賄がらみの疑いがかけられるのは間違いないと通子は思うと同時に、多衣が店と自分を救うために嘘をついているのではないかという推測にふと行き当たる。
その確証を得るため、通子には聞いておかなければならないことがあった。通子は矢場を呼び、多衣のお腹の子供が本当は矢場の子供ではないのか?と切り出す。矢場は『事情を知りたいのは、俺の方です』と切り出す。
旬平が出て行った後、多衣から誘われた矢場が多衣と関係を持ったのはたった1回。妊娠が発覚した時、産まないという選択をした多衣を、自分が幸せにするからと矢場がなんとか説得をしたらしい。
説得に応じ、産む気になったかと思われた多衣が、数週間後、突然お腹の子供の父親が矢場ではないと言い始めた。ここまで聞いた通子は、笠井に迫る贈賄疑惑の気配を察した多衣が、笠井が用立てた6000万はあくまでも自分との個人的なもので、通子に疑惑がかからないように、お腹の子供の父親を翻したことを察する。おそらく笠井とも相談の上なのだろう。
しかし通子の方はこのことを、ただ単純に多衣からの恩返しだとは素直に思えない。自分が旬平への思いを捨て、戦いから降りたにもかかわらず、多衣はまだ恩を得ることで自分との女の戦いを続けているようにしか、通子には思えないのだ。『馬鹿な人だわ』通子は胸の中で何度もつぶやいた。
そんな中、笠井から通子に電話がかかってきた。『おそらくこのまま逮捕になると思う』笠井はそう切り出し、6000万の件で明日にも多衣が事情聴衆を受けるが、通子のことは一切出さない約束になっていること、もし通子の方へ検察が現れてもシラを切り通すよう、笠井は手短に話した。
しかし、通子は自分1人が守られていることに対して納得がいかない。笠井が汚い金の使い方をして会社を大きくしようとしていた気配は通子も感じ取っていた。そんな笠井が用立てた6000万という金が、汚れた人の財布から出ていることを知っている自分も無罪ではないと通子は語る。通子はすべてを正直に話すつもりでいた。
そんな通子に笠井は最後に『夢の中で走り過ぎると、現実に走るより倒れる時はひどいぞ』と告げ、電話を切る。何としてでも多衣のお腹の子供だけは守らなければ、と通子は決意を固める。その翌日、笠井は逮捕された。
すれ違った通子と旬平
笠井が逮捕された翌日、旬平が突然店にやってきた。花ずみを去った旬平が静岡の大衆食堂で働いていることは、通子の耳にも入っていた。
『今夜は花ずみの名前を返してもらいに来たんだ』と切り出した旬平は、食堂の主人・秋葉がガンを患い、死期が近いことから、食堂の将来を託されたと明かす。秋葉が自分の死後の食堂の名前については、好きにしていいと言っていることから、旬平は花ずみの名前を自分の手元に取り戻したいと考えたようだ。
『嫌です・・・私断ります。そんな話・・・私、あなたに戻ってきて欲しいんです』動揺を隠せない通子。『私、もうごまかしとか嘘は一切いやなんです。笠井さんの嘘も、多衣さんの嘘も・・・矢場くんのついた嘘も』通子はそう明かし、だからこそ自分の気持ちに嘘をつきたくないと、旬平に戻ってきて欲しいという本心を明かしたのだった。
寂しそうな表情を浮かべ、『戻るって言うなら、俺はもうとっくに戻っていたよ』とつぶやく旬平に、自分たち親子が静岡へ一緒に行き、家族一緒に暮らせばいいという通子。笠井に6000万円を返すため、店を売却しようと考えていた通子はそう提案した。
しかし旬平は『これが初めて俺の方から口に出す別れだ。お前たちが静岡に引っ越すのは無理だから』と言い、秋葉に託されたものが食堂だけではなく、秋葉の妻と生まれたばかりの子供の将来も含んでいることを明かす。旬平は秋葉の亡き後の妻たちの生活も面倒をみようと考えているようだ。
『すれ違ったな・・・』旬平はそう言い、通子の元から再び去っていくのだった。
新たなチャンス
笠井と花ずみ、通子の黒い関係を取り上げた週刊誌の記事が近々出るらしいという情報を、別の週刊誌の記者からもらった通子。デマに対抗するためには真実を明かしたほうが良いと促され、通子は記者の取材に応じることにする。しかし、それこそが罠で、取材をした記者により、実際に通子が話した事実を捻じ曲げた記事が後日出ることになってしまった。
それにより、店には連日多くのマスコミが詰めかけ、大変な騒ぎとなる。客足への影響も大きかった。
このことを受け、激怒したのが勝浪のオーナー・大瀬だ。一時は店を返して欲しいと主張していた大瀬だったが、苦況の中でも這い上がろうとする通子の根性を改めて目の当たりにしたこともあり、大瀬は別の提案を通子にしてきた。『あんたにはニューヨークに行ってもらう』今度、ニューヨークに新店舗を出すことになったため、通子には店の支配人としてニューヨークへ行って欲しいと言う大瀬。
ほとぼりが冷めるまでの間、日本を離れ、世界の最先端で勝負してみるという話は、通子にとっても悪い話ではない。通子は検討したいと大瀬に伝えるのだった。
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戻ってきた旬平
『さっき奥さんのところに戻ると言って、この店を出て行きました。出て行ったというのは、この店を辞めたっていうことですけど』旬平が働いている食堂の主人・秋葉の妻・安代から、突然通子に電話がかかってきた。秋葉の死後、妻と子供の面倒を旬平が見るという話は、実は半分秋葉の冗談で、全くそのつもりがなかった安代は自分の知らないところでそんな話が進められていることに対して、腹を立てているようだ。また、主人の秋葉からも、旬平の好意に甘え、長い間引き止めてしまったことに対する通子への謝罪があった。秋葉は、なんと多衣が10年前に別れた夫だったのだ。
花ずみを出た後、ふと多衣の元夫のことが頭に浮かび、会いたくなった旬平。いつの間にか旬平と秋葉は親しくなり、そんな時ちょうど秋葉の容体が悪化し、倒れることになる。旬平は秋葉のことを放っておけず、店を手伝うようになったという経緯が秋葉から通子に明かされた。
『矢場さんが店に戻ってこない』ランチの準備を済ませた後、出て行った矢場が、夜の開店が迫っているにもかかわらず店に戻ってこないという連絡が娘の優美から入った。その直後。矢場本人から通子に連絡が入る。
矢場は慌てた様子で『突然ですが、店を辞めさせてもらいます』とだけ語ると、その理由については何も言わずに電話を切ってしまった。通子は矢場のもとへ、多衣が会いに来たに違いないと確信する。
花ずみの本店の板前を務めている矢場がいなければ、店を開けることができない。前田が店で働きたいという人間を見習いで入れると、困っている通子に告げた。
通子が支店の方へ戻ると、そこには久しぶりに見る旬平の姿があった。『女将さん、いろいろとご迷惑をかけてすいませんでした・・・また花ずみで働かせてもらいたいと思ってるんですが・・・』今朝早くに旬平から一からやり直させて欲しいという電話をもらった前田。矢場がいなくなるという緊急事態が起こったため、前田が通子には内緒で旬平を呼んだのだ。
通子が旬平を受け入れ、その夜から旬平もアパートで暮らすことになった。久々の家族揃っての団欒だが、狭い部屋に押し込められて、家族の距離は前にも増して近づいているように感じられた。
ニューヨーク行きへの返事を、通子が大瀬に告げにでかけ、帰ってきたその夜。家族に戻れたお祝いの食事会の席で、通子は家族が想像だにしないことを言い始め、家族を驚かせる。『今日はあなたを売ってきたわ。5000万円、見事に売ってきました』通子は勝浪に旬平の腕を売ったことを告げ、いつか店を継ぎたいと兼ねてから言ってくれていた優美には ニューヨークで修行してきてもらうことになったと告げた。
つまり、花ずみの本店を通子と息子・一希(板前になることを希望)が切り盛りし、勝浪に返却することになった支店の方で旬平が働くことになる。家族は通子の相変わらずのやり方に驚きながらも、終いには笑い出し、皆で家族の将来に乾杯するのだった。
女の戦いの決着
矢場と多衣の行方が以前わからない中、ある日、矢場から『多衣さん、そちらに行ってないですか?』という電話が、通子に入る。今朝、笠井の保釈を新聞で知って出かけたきり、多衣が帰らないらしい。やはり、矢場と多衣が一緒にいるだろうと考えていた通子は正しかったのだ。2人はともに生きて行く決意を固めていた。
そのしばらく後、多衣から通子に電話が入る。『笠井さんの保釈の件で、どうしても通子さんに話しておかなければならないことがあって』
直後、多衣と久々に会った通子。多衣のお腹はかなり大きくなっていて、顔もふっくらとしている。通子が旬平が戻ってきたことを報告すると、多衣に笑顔が出た。
多衣は保釈された笠井が命を絶つのではないかと心配していた。『私の最後のわがまま。通子さんならあの人を救えると思うんです』そう多衣は通子に頭をさげる。
矢場が迎えに来て、タクシーに乗り込んだ多衣。タクシーが出る前、通子はタクシーのガラス窓越しに『私、勝ったのよ』と声には出さずに、唇の形だけで告げた。多衣はうなづき、寂しそうな微笑を見せ、去っていく。今、完全に通子と多衣の、長かった女の戦いが終わりを告げた。勝ったのは通子だが、多衣が敗れ去ったわけではない。最初望んだものではなかったにしろ、多衣は多衣なりの幸せのかたちを手に入れたからだ。
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結末
保釈後の笠井の様子が気になった通子が、笠井の会社の人間に聞いてみると、『社長なら元気ですよ。一度会いに行ったんですが、奥さんやお子さんがつきっきりで・・・』という予想外の言葉が返ってきた。通子は安心するのだった。
ニューヨークの下見に大瀬とともに向かう優美を送り出した後、旬平とともに浜名湖に面する鰻屋を訪れた通子は、その帰り道、キクの遺品である帯とともに、湖に漕ぎ出す。
夫の浮気から始まり、がむしゃらに花ずみ再建に向かって走り続けてきた通子。何のために頑張っていたのか?というと、それは自分の心の中にあった姑・キクへの対抗心であったことに通子は改めて気づく。通子は帯を湖に沈め、キクとの決別を果たした。
今仙台にいるという笠井から店に電話があった。かつて自分が建設に携わっていた仙台の劇場が完成したため、笠井はそれを一目見に仙台へ来ているらしい。この劇場建設が笠井のヤミ献金に関わる発端となったものだ。
ただ声が聞きたかったという笠井と通子は、他愛ない世間話を交わし、以前のように笑い合った。『じゃあな』電話の笠井に、多衣が心配していたような暗い影は一切なかったように感じた。しかし、笠井と電話したその翌朝、通子はうなされ、自分の叫び声で目を覚ました。どうやら、通子は『笠井さん、道連れは嫌だ』と寝言を言っていたらしい。しかし、夢のどこにも笠井は出てこなかった。
『何かあったのか?笠井さんのことで』旬平に尋ねられ、通子は多衣が笠井が自ら命を絶つのではないかと心配していたことと、昨晩笠井から特に用もないのに電話があったことを明かす。
『馬鹿!!お前は俺のことで苦労して・・・それなのに、まだ全然男がわかってないな。今から新幹線で仙台まで行ってこい』突然、旬平が声を荒げた。男の勘からか、旬平は笠井の危機を確信しているようだ。『笠井さんが死んだら、お前絶対後悔する・・・』
部屋を飛び出す直前、振り返った通子は旬平に確認する。『いいんですね?私、今度こそ笠井さんと命がけの浮気をしてくるかもしれませんよ?』旬平は『ああ、それだと俺の過去がうまくご破算になる』と笑い、通子を部屋の外へ押し出した。
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ドラマ『あなたには渡さない』原作の感想
旬平をめぐっての通子と多衣の女の戦いは、最終的に旬平を取り戻した通子の勝利となるものの、ずっと絶妙な関係を保っていた笠井のもとへ夫の手により通子が送り出されるという意外な結末となりました。
最初は愛人である多衣に、夫を略奪されたかのような状況だった通子ですが、実は旬平の気持ちは常に通子の元にあったという事実が明かされました。強気だった多衣の方が、旬平の心が実は自分のところにないことを最初から最後まで実感していて、あの攻撃性が不安からのものだったこともわかりましたね。登場人物が本当の気持ちを明かさないまま物語が進んでいくため、最後までどうなるかわからず、誰が何を企んでいるのか?今度は何が起こるのか?非常にサスペンスフルな展開だったと思います。
そして、物語の本当の結末は読者に委ねられるかたちとなりました。あのまま、通子が笠井と結ばれるのか?それともまた家族の元へ戻ってくるのか?読み手によっては違う解釈もありそうです。
個人的には、あの後、通子が笠井と会えるか会えないかはさておき、結局は旬平のもとへ戻ってくる結末になるだろうという印象を受けました。なぜならば、物語の最初から最後まで、旬平が心では通子を思っていたように、どんなにごまかしても、強がっても、通子もまた最初から最後まで旬平のことを思っていたと思えるからです。
口では強気なことを言いながらも、旬平を力づくで自分のもとへ止めておこうとはしなかったことこそが、相手の幸せを思いやる通子の愛情だったのではないかと感じました。
今回はドラマ『あなたには渡さない』の原作小説『隠れ菊』のメインの物語のみをまとめてきましたが、原作小説には今回触れなかったサブストーリー的な物語が複数盛り込まれていて、それがメインの通子・多衣・旬平の3角関係を盛り上げる構成となっています。
強くて、かよわい、通子や多衣の繊細な感情や思いもより深く描写されていますので、ぜひ読んでみてください。
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おそらくこの壮大な物語を全8話のドラマ内で完全に再現することは難しいこと、原作『隠れ菊』が現代風にアレンジされると発表されていることから、ドラマがどんな風に進行していくのか、非常に楽しみです。
ドラマ『あなたには渡さない』の方も、楽しみに観ていきたいと思います。
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